29で連勝がストップした藤井四段ですが、今回はベテランの中田功七段相手に見事な勝利を収めました。
この対局は打ち歩詰めというめずらしい局面が勝負の鍵となった将棋でした。
打ち歩詰め(歩を打って詰ますこと)は将棋のルールで禁止されています。この打ち歩詰めをめぐる攻防が見ていて非常にハラハラしましたね。
藤井四段の居飛車穴熊 vs. 中田七段の三間飛車という戦型。
ここから24飛、同歩、49角、68飛、33桂というのがいかにも振り飛車らしいサバキです。
角を手にして49角と打つのが中田七段の狙い。
飛車に逃がして76の地点の馬を作るのが絶好なんですね。
すでに9筋の香を1つ吊り上げているので98に空間が空いています。
- 76の馬
- 持ち駒の桂馬
- 98の空間
この3つが揃えば、穴熊はいとも簡単に崩せます。
初心者には勉強になる手順ですね。
前図の33桂は、持ち駒に桂馬を加えて上記の3条件を満たすための手で、これで中田七段が指しやすいのではないかというのがプロの評価でした。
藤井四段は86桂と受けます。
ここに桂を打たないと、相手から98歩、同玉、86桂と打たれるとすぐに負けてしまうのでしょうがない一手です。
ここに桂を使わされて、苦しい藤井四段。
と、解説のプロもぼくも見ていました。
ところがそうではなかったのです。
この後、藤井四段は渋々打たされた86桂を使って反撃に出ます。(つまり、渋々打ったのではなく後の反撃まで見越して打ったという見方もできるのです)
数手後の65歩が、その反撃のスタートとなる一手でした。
65同歩に64歩と叩き、さらに73歩と叩いて、53角と王手すれば角金交換まで一直線。
そして74の地点への利きをなくしておいて、74桂!と跳ねたのです。
なんという踏み込みでしょう。それは自玉を大変な危険にさらす手でもありました。
前述のとおり、86の桂馬は受けの要。それがいなくなったので、すかさず98歩、同玉、86桂と逆に中田七段に86の地点を押さえられてしまいました。
図は86桂に99玉と逃げた場面。
相手は98歩と打つことはできません。打ち歩詰めはルール上禁止されているからです。
なので藤井四段の王様はギリギリ耐えています。とは言え、何か見落としがあれば一発で負けになるこの順を選べるのは、相当読みに自信がないとできない手です。
ぼくなら、相手に86桂を打たれたらもうダメと読みを打ち切るでしょう。
普通のプロも、86桂の後の順を読んだけど結局怖いから・・で実際には指さない人が多いんじゃないでしょうか。
藤井四段の「自分の読みを信じる力」は素晴らしいと思いました。
ちなみにこれ、アマチュアが真似すると絶対にダメなやつです。信じる力とか言葉はかっこいいですが、それが成立するのは本当にトップレベルの人間だけだということは言っておかないといけません。
さて、99玉の局面。中田七段は前へ進む駒が欲しい。歩以外ならなんでもいいという状況。しかし自玉は詰めろなので、一端73銀引と受け、以下62桂成、同銀、86歩と進みます。
相変わらず打ち歩詰めで逃れています。歩以外ならなんでもいいけど、桂馬は前へ進めないのでダメです。
どうしたらいいのか?・・動揺が出たのか、中田七段はここから
74桂?と疑問手。
さらにミスが重なり、一気に藤井四段が勝勢へと傾きました。
投了図は54桂まで。
以下は、玉が上へ逃げるのは64銀から42飛成で詰み。
71玉も、62角、81玉、92銀、同玉、93歩成、81玉、92とまで詰み。
藤井四段の凄さを改めて痛感した一局となりました。