藤井六段が糸谷八段を破り16連勝を飾りました。
この対局は、藤井六段の凄さを痛感した一局でした。
今までも数多くの凄さを見てきましたが、本局はその中でもベスト1です。
間違いなく今後語り継がれる一局となることでしょう。
いきなりハイライトから。
図は銀取りを無視して43歩と打った場面。
すでに藤井六段が優勢なので、56銀とか銀を逃げておくような手でも良かったのですが、さらに踏み込んで43歩。
とても驚きました。
ぼくのパソコンに入ってる将棋ソフトは最初この43歩を悪手と評価しました。
このソフトは「技巧」。無料にもかかわらず、先日の羽生さんの「48と」を一瞬で発見するレベルの実力で、並みのプロ棋士よりは明らかに上の強さがあります。
43歩以下、47歩成、42歩成、68桂成、同銀、58と
と進むと仮定した場合、ソフトはここで79金と受けに回るしかないと判断し、それなら43歩はダメと評価したのです。
しかし参考図1からは「52と」と取る手が成立します。
以下61角、82玉、62と と平凡に進めると、
62飛!と打ち込み、同銀、同と、同玉、22飛成
ここまで来れば詰みが見えてきますね。
後は合駒をしても72金と打っていけば、簡単な詰みとなります。
43歩から数えると詰みまでは31手の深さ。31手分の深さの探索ツリー全体が一体どのくらいの量になるのかわかりませんが、仮に1手ごとに2通りの分岐があるとしても「2の31乗」は21億手となります。
もちろん藤井六段がその全てを読んでるわけではありませんが、ソフトがしらみつぶしに手を探索した場合、21億手読まないとあの43歩は指せないということになります。
実際には分岐は2通りではなく3通りや4通りとなることもあるので21億以上かもしれません。
これで43歩がいかに凄い手かわかってもらえるでしょう。
43歩に47歩成とすれば、後は一直線の攻め合いですが、それでも参考図1から61角、82玉、54角というような「詰めろ逃れの詰めろ」という、うっちゃりを狙うような手があるので、とても緻密さが要求されます。
局後の感想戦ではこの54角の変化も読み筋だったことを明かしていましたね。
これも84桂から王手で追っていけば、自陣の詰めろを消す手が生じるのでそこで相手に詰めろをかければ勝ちのようです。
一直線の攻め合いがダメだと判断した糸谷八段は、43歩に対し54角と打ちます。
この辺はさすが。高度な手の応酬です。
以下、42歩成、27角成、52と、47歩成、59金と進みました。
最後の59金も読みが入った一手。もう38の金は無視すべき存在なんですね。
この1回受けとくっていう手は特にアマチュアには難しい手です。
43歩よりもこの59金に感銘を受けた人も多いはず。
この手で藤井六段は大体の勝ちは読み切っていたみたいです。
最後も鮮やかな即詰めでした。
この詰みも長手数かつ気付きにくい手順です。
当初ソフトは82飛と受けられて少し長引くという評価でした。
しかし藤井六段はほぼノータイムで85桂
以下92玉、82龍、同玉、52飛
この52飛の局面でも解説のプロ棋士2人はすぐには詰み筋を見つけられませんでした。
実際これで合駒されて詰むの?ってなるのも無理もありません。
一見、全然詰まないように見えますからね。
85桂からカウントすると25手詰でした。
振り返ってみると、
1.43歩の踏み込み
2.59金と1回手を戻し
3.最後は鮮やかな即詰み
とにかく43歩以降は全てが神がかったような手の連続でした。
ぼくは終局後もしばらく鳥肌で、茫然としていました。
こんな手を指せる人間がいるということが、信じられない気持ちです。
藤井六段の対局は、プロ棋士の解説ではもはや不十分。
強いソフトの力を借りてようやく手の意味がわかります。しかもCore i5レベルの普通のノートPCだと、たまにソフトの読みを超えてくることがあります。
それで藤井六段の凄さがより一層わかります。
今回見せた「ソフト超え」は、1つの読み筋を深く深く読み進めていくスタイルで生み出された一手。ソフトの読み方とは全く違うスタイルでした。
ソフトによる評価値や候補手を見ながら将棋を観戦するのは興醒めの部分もあるのですが、藤井六段は唯一の例外と言えるかもしれません。
本当に素晴らしいものを見せてもらいました。