藤井七段が先日の石田五段の対局でまた素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
すでに話題となっている77同飛成という凄まじい一手。
歩と飛車の交換しようとする手ですから、素人目にもすごい一手だということがわかるはずです。
こういった派手な一手は、素人ウケするだけで、そこそこ将棋をかじった人間からはあまりウケないというのが一般的です。
しかし、今回の藤井七段の77飛成は、派手でなおかつ緻密な一手。両方を兼ね備えた素晴らしい手順でした。
我が家のノートPCの将棋ソフトは、直前の77歩の場面では藤井七段が不利と判定しており、そこで4600万通りの局面を読んでようやく77飛成を発見できました。
※ソフトといってもマシンパワーが低いのでそこまで強いわけではない
アマチュア高段者のぼくから見て、この手のすごいところは、
・アマ高段者クラスでも指し手の有効性がすぐにはわからない
・これ一発ではなくて、この後もしばらく巧妙な手が続き、結果藤井七段の勝ちになる
・この手を指すにはもっと前の段階から読み切っていないと指せない
という点です。
羽生さんの有名な52銀や66銀よりもレベルは明らかに上です。
大げさではなく「歴史的な一手」と言っていいでしょう。
将棋を知らない人にわかりやすく言うなら、先月行われたサッカーCL決勝でベイルが見せたオーバーヘッドのような一手と言えるかと思います。
さて少し落ち着いて、局面を振り返ってみましょう。
図は先手の石田五段が72銀と両取りをかけたところ。
これ次に63銀成とすれば詰めろなので、非常に厳しい手なのです。
藤井七段は86飛と指しました。
86飛は次に88角以下の詰めろなのですが、87歩、76飛、77歩と受けられると飛車取りと63の金取りが残っていてダメそうに見えます。
この局面、先手玉は78金が守りに良く利いていて、詰めろがかかりにくい形なんですよね。
77飛成の代わりに、もし56飛と角を取っても詰めろになりません。すかさず63銀成と詰めろをかけられて逆転してしまいます。
78金の守りが強い、しかも87歩、77歩と上部も歩でフタをしたのでけっこう頑丈。これは先手良しか・・?と思われたところでの77飛成!でした。
つまり77の地点を強引に食い破り、守りの78金を移動させることで詰めろをかかりやすくするという手です。
もし77飛成を同桂と取ると76桂で詰めろ、さらに詰めろが続き藤井七段の勝ちです。
よって77同金でしたが、そこで85桂もピッタリの一手でした。
これも次68銀以下の詰めろ。
さらに詰めろが続きます。
この辺の詰めろも何1つ簡単なものはなく、1つ1つ精査していこうと思ったら、かなり時間がかかるはずなんですが・・藤井七段の頭の中は一体どうなってるんでしょう。
そしてとうとう最後、詰みの局面がやってきました。
何通りか正解はありますがどれもけっこう難しい手順。
藤井七段は86桂というかっこいい手で決めました。
86歩と取るのは67角~58角~67銀と王手で追いつつ、76の金を取る手順で詰みです。王手しながら76の金を取るために87に空間を開けさせる狙い。
86金と取れば77の地点から清算して詰み。
アマチュア有段者では「詰みがあるよ~」と教えてもらってからでも20~30分くらい考えないと答えに辿りつかないくらいの難易度です。
それにしても藤井七段の終盤は本当にすごいです。
すでに羽生さんや、全盛期の谷川さんをも凌ぐ強さがあると思います。
藤井七段の終盤は、サッカーのスーパーゴールを見ているかのようにエキサイティング。
ちょっと前の藤井-糸谷戦もそうでしたが、将棋を見てこんなに鳥肌が立つ経験はそうあるもんじゃないです。