AbemaTVでやっていた「藤井聡太四段 炎の7番勝負」の最終戦は羽生三冠との対戦でしたが、見事に藤井四段が勝利を飾りました。
非常に注目度が高く、将棋をあまり知らない人もたくさん観戦していたようですね。
局後に羽生さんが藤井四段を「完成されている」と評しましたが、ぼくも同じような感想を持ちました。
藤井四段はその終盤力が特に評価されていますが、本対局では、それよりも中盤での戦い方がとても上手かったと思います。
慎重かつ大胆と言っていいんでしょうか。非常に落ち着いた指し回しで、間合いの取り方も絶妙でした。
本局の戦型は角換わり。
先手の藤井四段がいわゆる「45桂ポン」と言われる流行の手順から仕掛けました。
駒損をするのですが、後手は歩切れになって、まとめにくい形になるので、それで採算が取れているという判断に基づいた手順です。
下図は、羽生さんが32玉と指した場面。
羽生さんはこのままだと「屋根がない家に住んでる」ようなものなので、75歩から一歩を手に入れて、一刻も早く24に歩を打ちたいところ。
しかしそうはさせじと、藤井四段は35金と打ちました。
これは好手でした。
24の地点を押さえるのと、将来45歩からの仕掛けも狙っています。
この後、56銀、66銀と2枚の銀を繰り出して、5筋4筋を制圧にかかる藤井四段。
羽生さんはカウンター狙い。じっと我慢しながら、機をうかがいます。
ここで藤井四段は77歩と冷静に手を戻しました。
ぼくには指せない手です。
多くのアマチュア有段者クラスは、45歩からの攻めをメインで考えるのではないでしょうか。
77歩は、それ自体は合理的な手だとわかるのですが、
・相手に手を渡すようで怖い
・45歩のチャンスを逃してしまうようで怖い
というのが感覚的にあるので、相当読みに自信がないと指せないと思います。
実際この局面では、相手に有効な手がないことを藤井さんは見切っていました。
77歩に対し、羽生さんは83飛。
これは87の地点を狙った手で、43角が遠く87を狙っていたり、95桂と打って直接的に87を狙っていこうという手です。
しかし、局後はこの手が疑問手だったようなことを羽生さん自身は言ってましたね。
83飛には構わず先手45歩が厳しいようです。
45同歩には44歩と打ち、ばらしてから55金!
このゴツい手が決め手と言ってもいいくらいの一手でした。
もし44の角が逃げると44歩と打たれる手が厳しすぎです。
55金以降、後手の王様をあっという間に丸裸にし、羽生さんに粘る余地を与えませんでした。
振り返ってみると難解な中盤戦で完全に羽生さんを圧倒したのがすごいと思いました。
56銀、66銀で中央制圧。
77歩:相手に有効な手がないことを見越し冷静に守り、
45歩:踏み込むところで一気に
45歩という右ストレートを打ちたい藤井四段。
それに合わせるカウンターを虎視眈々と狙う羽生三冠。
両者の高度な駆け引きが続く中、完璧なタイミングで右ストレートを放つ藤井四段。
その一撃で王者からダウンを奪いそのまま衝撃KOをおさめた試合でした。