羽生さんがA級順位戦プレーオフを制し、名人戦の挑戦権を獲得しました。
3月18日には豊島八段、21日には稲葉八段と若手のトップ棋士2人に連勝。どちらも不利とされる後手番での勝利ですから、見事というしかありません。
特に豊島八段戦では終盤に「48と」という印象的な手が出ました。
AbemaTVで生中継していたので観戦していた人も多いのではないでしょうか。
解説の深浦九段が驚いた一手です。
将棋をあまり詳しくなくても、解説のプロが驚いてるのを見て「すごい手なんだな~」と感動する部分はあると思います。そういう意味では、解説もそのドラマの演出に一旦を担っているのかもしれません。
ちょうど羽生さんがNHK杯で52銀を指したとき、解説の米長さんが「おおーやった!」と叫んだのを思い出しました。
何が言いたいかというと、そういう手は基本的に素人受けする派手な手で、解説のオーバーリアクション効果も加わって勝手に「伝説化」「神格化」されるということです。
何をお前はえらそーにと思われるかもしれませんが、一応ぼくは昔アマチュアとして全国大会に出場するくらいのレベルでしたのでそれぐらい言うのは許してください。
別に羽生さんの「48と」がすごくないと言ってるわけではありません。
ぼくもリアルタイムで観ていたとき、「マジか!」と驚きました。
でもよくよく考えればこれが最短で勝ちを決める一手です。
しかもこの「48と」は勝敗にはほとんど影響しない一手。
感想戦で「48と」が議題に上ったのは第三者の発言からで、羽生、豊島の両者もあまり重要視していませんでした。
それよりも数手前の2筋、3筋の攻防。
やや苦しい羽生さんが38歩成~27歩成~37歩とマジックのような手順を繰り出す場面がこの試合のハイライトでしょう。
羽生さんの強さがよく出た場面だったと思いますが、非常に地味な手でわかりにくいです。
実際に多くのアマチュアから見れば「48と」こそが羽生さんの凄さだと思うのも無理もありません。
確かにそういう「華がある手」が指せるのも凄いことだと思います。
「48と」の代わりに普通は33金と受ける手が思い浮かびます。
局後の感想戦で誰かが指摘されていましたが、羽生さんの「え?この人なにいってんの?」的なリアクションが笑えました。
33金は12角行成で次の22馬が詰めろなんですね。
羽生さんはそれが嫌だったみたいです。
実際には参考図で32歩と受ければ羽生さんの勝ちは変わらないのですが、この順は紛れが多いんです。
「48と」は一瞬危険ですけど、とても明快かつ最短の勝ち。
それを読み切った力は見事でした。
なんか羽生さん、藤井さんに負けてからさらに進化したような気がします。
進化というか、若さというか。
藤井さんもこの局面なら「48と」という踏み込む順を選んだはずです。そんな藤井さんの台頭に刺激を受けているように思えた試合でした。
4月に始まる佐藤天彦名人との7番勝負も楽しみになってきました。