将棋の藤井聡太二冠が、豊島叡王に挑戦した叡王戦の最終局はとても見ごたえにある戦いでした。最後は藤井二冠が押し切り見事にタイトル奪取に成功しました。
これで棋聖、王位に続き叡王と三冠。しかも史上最年少で三冠を達成しました。
本局は序盤から後手番の豊島叡王が積極的に動いた対局でした。
手前側が藤井玉、奥が豊島玉。
いきなり銀2枚を繰り出していき、藤井二冠にプレッシャーをかけます。
この2枚の銀で8筋の突破を目指す作戦。単純ですが受け間違えると一発KOがある手順です。
しかしここから藤井二冠の対応が見事でした。
角と金で受けて、2枚の銀を押し戻すことに成功。
上図から30手ほど進んだのが下図になります。
ここでは完全に先手が有利となっています。
まず形が美しいです。
中住まいの王様。横に48金。
78銀、67銀の連結。56の金は78から77、そして66、56と移動して88の角筋を通しています。
対する後手の陣形は、序盤あれだけ威張っていた銀2枚が8筋に追いやられて重たくなっていますし、金2枚も王様から離れてバランスが悪いです。
この局面に至るまでの藤井二冠の構想が素晴らしかったということでしょう。
途中24歩から25歩の継ぎ歩の手順。
56の銀を67に引いてから金を66、56と活用させた順などが印象的でした。
中盤の藤井二冠とAI最善手との一致率は63%
対する豊島叡王の一致率は56%でした。
難解な中盤で60%を超える一致率は流石としか言いようがありません。
その後、藤井二冠優勢のまま終盤戦へ。両者1分の秒読みに突入しました。
最後、藤井二冠の97桂で豊島叡王にも盛り返すチャンスがありました。
それが56歩。
13角を活かした攻めで、同銀と取れば、87歩成、同銀、76銀!と迫る順がありました。
結局、豊島叡王は1分という短い時間でこの順を発見できませんでしたが、それもやむなしといったところでしょう。
むしろこの局面に至るまでの難しい中盤戦で常にリードし、豊島叡王に時間を使わせた藤井二冠を褒めるべきですね。
実際、感想戦でこの最終盤がふれられることはありませんでした。
97桂に56歩というAIの最善手があったとしてもそれは両者にとってあまり意味のないことだということです。
その辺は観る将としても尊重したいと思い、詳細な手順は省きました。
本局のハイライトは、難解な中盤戦での藤井二冠の構想です。
・24歩~25歩の継ぎ歩のタイミング。
・それを利かしてからの67銀引
・66金~56金という金の動き
地味ですが、深い読みに裏付けされた素晴らしい手順だったと思います。
【追記】
最近は藤井さんの「一手」に着目した解説が多いです。
本局で言うと97桂。
わかりやすく感動したい、AI超えの一手、神の一手。
そういったものを求めすぎているきらいがありますね。