藤井七段が先日の棋聖戦で指した31銀という手。
AIで6億手読むと最善手として浮上する手というツイートがバズりましたね。
まあいかにもバズりそうなツイートだなと思いましたが、ちょっと本質を外しているのかなとも思いました。
「6億手」と言われてなんか凄そうって思ってしまうのも理解できます。
しかし31銀という手が本当に最善手だったのかどうかは難しいところで、第一候補として挙げられていた32金でも良かった説があります
先手が渡辺棋聖。
後手が藤井七段。
いま先手が66角と打ち、22の金取りとした場面です
ここでの候補手としては
1.32金
2.31銀
の2つがあります
本命は32金と金を逃げる手
そこからは11角成、46桂と、激しい攻め合いに突入します
プロの第一感はこの順。
渡辺棋聖もこれを予想していました。
ぼくもこの局面をソフトを使って検討してみましたが、やはり32金を第一候補として上げてきました
このソフトは技巧。冒頭のツイートに使われたソフトとは別なのですが、それでもかなり強いソフトであることは間違いありません。
このソフトで13億手(深さは25)読ませたところ
最善手は32金(評価値493)
次善手は31銀(評価値330)
3番手は55桂(評価値128)
となりました
この時点での32金と31銀の差は微差です
ソフトによっては32金推しになることもあるし、別のソフトでは31銀推しになることもあるでしょう
32金は強烈な攻め合い
31銀は受けの手で流れを落ち着かせる手です
藤井七段は31銀を選びました
結果的にこの手が渡辺棋聖の意表をつき、この後、渡辺棋聖の指し手が乱れました
藤井七段が31銀を選んだとき、ぼくはあの谷川さんが藤井七段に対する評を求められたときの言葉を思い出しました
「私が17歳のときと比べると…野球に例えるならストレートの速さではいい勝負になる。でも球種と制球力では藤井七段にまったく敵いません。彼はこの半年くらいで急な勝負の流れを緩やかに戻す“ギアチェンジ” を身に付けました。これは羽生さんが10代後半の頃でも持っていなかった力です」(谷川浩司)
そうこれはまさしくギアチェンジ。勝負の流れを緩やかに戻し、その中でより良いチャンスを伺うという手でした
実際、31銀、79玉、46歩 以下数手が進み、気づいてみると後手だけが一方的に殴るという理想的な展開になりました
振り返ると31銀には、44歩と打ち、
同金、同飛、同飛、同角、49飛という展開の方がまだ良かったようです
これでも後手がやや良しですが、先手もチャンスがありそうです
31銀は確かにすごい手なのですが
32金(ふつうの手)とそこまで明確な差がない
という意味で、あまり神格化するような手ではないと思います
むしろ本局では、それよりももっと前に指した54金の方が歴史的な意味も大きいでしょう
結局ぼくが言いたかったのは、騒ぐべきポイントがちょっとずれてるなということ。
アマ愛好家や将棋を知らない人ならまだしも、プロ棋士がまわりを煽るようなこと言ってるのはいかがなものかと思います